中学校入学式式辞

院長 田中弘志

新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。女子学院は皆さんのご入学を心からお祝いし、歓迎いたします。新入生を迎えるというのはいつでもうれしいものですが、今年は特にそのことを強く感じています。なぜなら3月11日に発生したあの大地震と津波による大災害以来、そして終わりの見えない福島第一原子力発電所の事故の報道に日々接する中で、おそらく日本中の人々が暗く不安な気持ちで毎日を過ごしていますので、皆さんのような若い人たちの元気な、希望に満ちた姿を見るだけで、そして笑顔を見るだけで、ほっとすると同時にとてもうれしい気持ちになれるのです。被災地の方々の苦しい、困難な生活はまだまだ続きますが、私たちはその人々に心を寄せながら、しかし私たちの今なすべきことを着実に果たしていくことが大切だと思います。放射線の影響を心配しながら過ごす生活は当分避けられそうもありませんが、しかし暖かな春の陽ざしとともに、今日の入学式に合わせるかのように櫻の花も咲きそろい、新しい出発をしようとしている全国の新入生たちとともに、皆さんの門出を祝ってくれています。皆さんにはその祝福に応えて、元気な姿で周りの人々に勇気を与えていっていただきたいと願っています。

保護者の皆さまには、ひと月ほど前に新入生保護者オリエンテーションでお目にかかりましたが、今日改めまして心よりお嬢さまのご入学のお慶びを申し上げます。これから始まるお子さま方の女子学院における中学校生活が実り多いものとなりますようにと願いながら、私どもも保護者の皆さまとともに、お子さまがたの成長を見守って参りたいと思っております。ご協力のほど、どうぞよろしくお願い申し上げます。それからついでにひとつだけお話をしておきますが、今回の地震による本校の建物の損傷は幸い軽微なもので、構造上の安全性は専門家により確認されておりますのでご安心下さい。実は最近インターネット上に「JGは今回の震災で渡り廊下が崩壊した」という書き込みがございまして、ある受験生の保護者の方が心配してお電話を下さいました。確かに本館と東館をつなぐ渡り廊下のつなぎ目の部分に若干の損傷はありましたが、渡り廊下そのものは全く問題なく、安全に通行できるようになっております。蛇足ではございますが、念のためお伝えしておきます。

さて新入生の皆さんは、今どのような気持ちでこの場に臨んでおられるのでしょうか。喜びと期待に胸を膨らませる一方で、ちょっぴり不安も感じているという人が大半だろうと思います。小学校時代の友達から離れて、あまり知っている人のいないこの学校で学ぶことへの不安を抱いている人もいるかも知れませんし、今までとは違った遠距離通学に不安を感じている人もいるかも知れません。しかし、新しい環境に対する不安は誰でも多かれ少なかれ抱えているものです。不安なのは自分だけではありませんから、どうぞあまり心配しないで下さい。中学校に入ると、勉強の中味はもちろん、勉強の仕方、生活の仕方、通学の方法、その他いろいろな面でこれまでとは随分違うところがでてくると思います。新しい友達の輪も広がるでしょうし、しばらくするとクラブ活動も新たに始まります。女子学院という学校は皆さんにたくさんのことを期待し、また要求もしますので、ここでの生活はとても忙しいものになると思います。慣れるまでには少し時間がかかるでしょうし、初めのうちはきっと疲れることも多いだろうと思いますが、出来るだけ早く自分の生活のリズムを作り上げることを当面の目標にして努力してみて下さい。

中学生になってこれからいろいろと新しい発見があり、経験をしていくことになりますが、女子学院に入った皆さんにとって恐らく一番大きな変化であり、新しい経験だと思われるのは、キリスト教に触れるということではないでしょうか。今日のこの入学式も、讃美歌を歌い、聖書の御言葉を聞き、ともに祈りをささげるという礼拝の形式で行われていて、皆さんの中には少し戸惑いがあるかも知れません。これから毎日の学校生活は朝の礼拝で始まりますが、礼拝はこの学校の中心になるものとして私たちが大切にしているものです。今はまだ分からないことばかりだと思いますが、何も心配する必要はありませんので、少しずつ慣れていってください。ただひとつだけ最初に心に留めておいて頂きたいのは、私たち一人一人は神さまに生かされている存在だということです。別の言い方をすれば、私たちは自分の意志で生まれてきて、自分の力だけで勝手に生きていくのではない、むしろ生かされているのだ、ということです。これから礼拝のたびに、また聖書の授業などで、繰り返し聖書の言葉に触れることになりますが、聖書というのは、自分たちの人生には間違いなく神さまが働きかけておられるということを、自らの経験を通して確信させられた人々の信仰の証言です。2000年以上の長い時代を越えて世界中のたくさんの人々によって読み継がれてきた、いわば不変のベストセラーとも言える書物です。ただそこに記されているのは、決して神のように崇高で、立派で、優れた人々の言葉や行いではありません。むしろ迷い、悩み、失敗をしては後悔を繰り返すような弱い人間、つまり普通の人間の姿が多く描かれています。しかし大事なのは、神さまがそのような人間をどれほど大切に思い、慈しんでおられるかということ、そしてそのような神の愛に対して人間はどのように応答していけばよいかということを中心に描いている、ある意味では大変不思議な書物だと言うことも出来ます。

先ほど新約聖書のヨハネによる福音書15章の一部を読んでいただきましたが、ここはイエス・キリストがご自分のことをぶどうの木に、私たちをその枝にたとえてお話をしておられる大変有名な箇所です。「私はぶどうの木、あなた方はその枝である。人が私につながっており、私もその人につながっていれば、その人は豊かに実を結ぶ。」という言葉がありました。これは先ほどもお話しましたように、私たちは一人で勝手に生きているのではなく、神によって生かされていることを表しています。木の枝が幹につながっていることによって生きているように、私たちも命の源につながっていることによって生かされているのだということです。ではその命の源とは一体何だろうというのが、これから皆さんが毎日の礼拝を通して、あるいは聖書の授業を通して考えていく課題です。聖書はまた私たち一人一人の決断や選びの背後には、神さまの深いご計画があり、私たちにとって最もふさわしい形でそれが実現されていくのだということを教えてくれます。もしそうであるならば、皆さんが女子学院を受験して合格し、入学することになったその背後には、実は神さまの意志が働いていたということになります。聖書的に言うならば、皆さんは神さまに選ばれてこの学校に入学したということになるのです。しかし、「そんなことはない、私は神さまとは何の関係もなく、自分が受験を決めて、一生懸命努力して、合格を勝ち取ったのだ」と思われる方も多いのではないでしょうか。そう思われるのも無理はないと思います。実は皆さんの先輩たちも、多くの人が私の話を聞いて変だなと感じながら女子学院での生活を始められました。神さまと私たちの関わりについては、これからじっくり時間をかけて考えていって下さい。

女子学院中学校で私たちが大切にしていることがもう一つあります。この学校では勉強に力を入れることは当然のことですが、それ以外のクラブ活動やホームルーム活動、生徒会の委員会活動、体育祭や文化祭等の学校行事などをとても大事にしています。それは皆さんが幅広い活動や経験を積むことによって、頭も体も心も鍛え、友人との交わりを通してお互いに高め合えるような良い人間関係を築き、バランスの取れた人間として豊かに成長することが出来るようになるためです。先ほど女子学院での生活は大変忙しくなるだろうと言いましたが、それはこのようなことも前提にしているからなのです。どうかいろいろなことに積極的に取り組んでみて下さい。その際、一つ心に留めておいて欲しいことがあります。それは何事においても他人より優れていなければならないということはない、ということです。皆さんは間違いなくすでに十分にすぐれた能力に恵まれた人たちです。しかし一人一人に違った、大切な個性があり、違った歩み方があります。疲れた時には一休みすることもあるでしょう。これからは他人との比較ではなく、自分の中に目標を設定して、自分に合ったペースとやり方でその目標に向かって努力するように心がけて下さい。自分が持っている良いものを伸ばし、友人の優れているところに学ぶという心構えで、お互いに学び合い、高め合うことの出来る友人関係を是非作り上げていって下さい。

最後に、明るく楽しい中学校生活を送るために、私は皆さんに一つお願いがあります。それは人間関係の基本ともいうべきものですが、周囲の人々に対して敬意をもって接する気持ちを大切にして頂きたいということです。それは具体的には例えばきちんとした挨拶をするとか、場所や時をわきまえて、自分の言動にけじめを付けるというようなことで表わされます。必要な時にきちんと挨拶をするということは、相手の存在を認めるという行為です。先生でも友達でも、誰かが話している時にはその話に耳を傾ける。そして自分の意見を求められたり、質問などがある時には、遠慮せずにはっきりそれを表明する。これも相手を尊重する姿勢に通じるものです。皆さんが中学生になるというのは、一歩大人に近づくということですが、このような人間関係の基本になるようなことは、大人になっても是非忘れないでいてもらいたい、というのが私の願いです。今日本中の人が、いや世界中の人々がと言っても構わないほど、多くの人々が日本のために、被災地の人々のために祈って下さっています。人々が大変やさしい気持ちになっています。私はとても素晴らしいことだと思っています。このような災害の時だけでなく、日常的にこのようなことが行なわれるようになれば、争いのない、戦争のない世界を作り出すことも夢ではないと思います。これまでの大人の世代には願っても出来なかったそのような夢を実現していくのは、皆さんたち若い世代の力だと思います。他者を尊重する、相手を思いやる心をぜひ大事にしながら、これからの中学校生活に臨んで下さい。

地震関連の報告

去る3月11日に発生した東日本大震災の本校への影響、およびその後の状況についてご報告しておきます。
当日は年度末試験後で授業のない日でしたが、クラブ活動その他で600名余りの生徒が学校に来ておりました。地震後、地下鉄、JR等の公共交通機関の多くがストップしたため、帰宅出来なくなった生徒たち約500名が学校に留まりました。防災用に備蓄してあった乾パン、水、毛布、保温アルミシート等を活用し、体育館にマットを敷いて一夜を過ごしました。教職員およそ50名が夜を徹して、生徒たち及び心配して駆けつけてこられる保護者の方々への対応にあたりました。夜の間に保護者のお迎えがあって帰宅した生徒もおりますが、大半は翌朝電車が動き始めてから保護者のお迎えで帰宅を始め、正午までには全員無事学校を出ることができました。防災用品を常備することの大切さを改めて感じたことと、今回はライフラインが止まらなかったので大きな混乱もなく済んだものの、それが止まった時の対策をもっときめ細かくしておく必要性を痛感したというのが今回の教訓です。
学校の施設・備品の損傷は幸い軽微でした。備品が何点か割れたり破損したりしたことと、本館と東館をつなぐ渡り廊下のつなぎ目の覆いに若干の損傷があったこと、および体育館の窓ガラス数枚にヒビが入ったことぐらいで、渡り廊下も含めて建物全体に構造上の問題はないという専門家の診断をいただいております。2年前に体育館の耐震補強工事を行っていたことが今回生かされたのは幸いでした。
その後の状況ですが、なお続く余震の心配、計画停電による交通機関の乱れ、福島第一原子力発電所の事故の影響等を考慮し、年度末の主な行事は高校卒業式を除いてすべて中止、春休み中の学校行事および生徒活動も中止といたしました。なお新年度は4月8日の入学式からスタートしました。放課後の下校時間だけはまだしばらく早めることにしております。

高3修学旅行

今年の高3は、前半が4月10日(日)~13日(水)、後半は11日(月)~14日(木)の3泊の日程で、奈良・京都に修学旅行に行きました。生徒たちは高2後期から、この旅行のための準備にかかり、とても手の込んだ、旅のしおりを作り上げました。その中から、いくつかのしおりを紹介します。

女子学院に春が来ました

女子学院に春が来ました。花が咲きみだれる中、生徒たちの明るい声がひびいています。

“…as a flower fights upwards, through the stones, and alone with God, to flower in the sun at last.”
D. H. Lawrence
“David”

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