2007年新年のご挨拶

院長 田中弘志

新年になって早くも1ヶ月が過ぎました。ご挨拶が大変遅くなりまして申し訳ございません。いろいろな思いを込めて「今年こそは!」という新たな決意と願いをもって、新年をお迎えになった方も多かったのではないでしょうか。昨年末に選ばれた「今年の漢字」は「命」でしたが、今年こそは人の命がもっと大切にされる年であって欲しい、今年こそはわずかでもいいから、世界が平和に向かって確かな一歩を踏み出したのだと感じられるような年になってもらいたい、私はそういう思いでこの年を迎えました。
しかし残念ながら今年も年明け早々に飛び込んできたニュースは悲惨な殺人事件でした。最近は身近な家族同士が傷つけ合うような事件が続いていますし、目を国外に向ければバンコクでは連続爆破テロが起り、イラクでは相変わらず連日のように多くの犠牲者が出ています。本当に暗い気持ちにさせられることばかり多いように感じられるのですが、そんなときに最近ある人に勧められて読んだ本に大変力づけられ、勇気と希望を与えられましたので、その本のことをご紹介したいと思います。

それはPHP研究所から昨年10月に日本語訳が出版された『生かされて』という本です。著者はイマキュレー・イリバギザ、ほんの十数年前にアフリカのルワンダで起こった民族大虐殺を奇跡的に生き延びた一人のツチ族の女性の手記です。ルワンダには多数派のフツと少数派のツチという部族があって、長い間抗争を繰り返してきたこと、大規模な虐殺事件も何度か起こっていたらしいことは私も知っていましたが、それ以上のことは何一つ知りませんでした。人種、宗教、部族などによって人を偏り見ることをしないという、大変すぐれた考えの両親のもとで育ったイマキュレーは、10歳になるまでそういう部族間の対立の歴史はもちろん、自分がどちらの部族の人間なのかさえ知らなかったと言います。その彼女が大学3年生になった1994年、フツが支配する政府軍に後押しされた過激派組織が、そして後にはフツの一般市民までもが、「ツチをこの地上から根絶せよ」「ツチがかつて存在したという痕跡さえ残さないように抹殺するのだ」というスローガンに酔ったように殺戮者と化し、徹底的な虐殺を繰り返しました。ルワンダ政府の推定ではおよそ100日間で100万人が殺されたと言います。まぎれもないルワンダのホロコーストです。
イマキュレーの家族は、奨学金を得て外国で勉強中だった長兄を除いて、両親も次兄も弟も皆惨殺されました。イマキュレーだけはある牧師の家にかくまわれ、トイレの中に隠れて難をまぬがれました。とは言っても、そのこと自体がまさに命がけの避難生活でした。クローゼットの大きさしかないトイレの中に、他の7人の女性たちとともにまるで折り重なるようにして、殺人者たちが何度も何度も家捜しにやってくる恐怖に震えながら、3ヶ月もの間隠れていたのです。そこへ逃げ込むまでも、そこを離れて解放軍のキャンプにたどり着くまでの間にも、絶体絶命の危機に瀕することが何度もありますが、彼女は奇跡的にそれらをくぐり抜けて助かります。その逃避行の過程で彼女はある時点から、自分は神に生かされている、自分にはこの世でまだなすべきことが残されているのだという強い信念を抱くにいたります。ほかに何も頼るものもなく、ただ逃げ回るだけの彼女に残されていたのは祈ることだけでした。しかし両親からカトリックの信仰を受け継いでいた彼女はひたすら神に救いを求め、祈りを通じて神と語り合う日々を重ねるうちに、祈りが具体的に彼女にとって大きな力になっていくのを強く感じるようになったのです。
外国の軍隊の支援のもとについにツチの解放軍が勝利し、イマキュレーが再び自由を取り戻した時、彼女の心の中では今後なすべきことが既に決まっていました。それはこの痛ましいホロコーストの事実を世界の人々に語り伝えていくこと、そして国内にあっては憎しみの連鎖を断ち切るために努力していくことでした。英語で出版されたこの本の原題は”Left To Tell”となっています。語るために自分は生き残った、という思いが込められているのを感じることが出来ます。フツの政府軍が敗れたために立場が逆になって、ツチの報復を恐れて逃げ惑うフツの人々が捕らえられていく様子も描かれていますが、ある時イマキュレー一家の殺害を指揮した一人の男と彼女が対面する場面があります。彼女の心の中に激しい葛藤がありますが、最後に彼女の口から出た言葉は「あなたを許します」でした。
自分の家族や仲間を傷つけ、命を奪った相手は絶対に許せない、殺してやりたい、という正直な思いと同時に、しかしそんなことをしても自分たちの心の平安は決して得られない、殺された両親は決してそのような復讐を喜んではくれないだろうという彼女の心の葛藤は、この本の中に繰り返し描かれています。そして一度は絶対に不可能だと思われたこと、すなわち自分の中の憎しみと復讐の気持ちを消し去り、無条件の愛と許しに生きたいという願いを持つようになること、それを彼女は神との祈りの中で経験したのです。殺人者たちを許すという彼女の気持ちを知った人々の中には、それは馬鹿げている、偽善的だ、と言って彼女を非難する人々もいました。それでも彼女はやはりどこかで憎しみの連鎖を断ち切らなければ、同じことが繰り返されるだけだと確信しているのです。
私たちの住む世界には憎しみと争いが絶えません。ごく身近な個人的な人間関係のレベルから、国と国との関係にいたるまで、規模は違いますが構図は同じです。そしてたいていの場合、争いが激しくなるのは自己を絶対化する時です。いつも悪いのは相手だと信じて疑わない時です。憎しみは私たちの感情の一つで、これをなくしてしまうことは不可能でしょう。しかし私たちはこれをコントロールする術を学ばなければならないのだと思います。この本の推薦の言葉の中に「イマキュレーは意識のとても高いレベルに生きていて、彼女に出会ったすべての人のエネルギーを高めています」「完全な許しと無条件の愛を提供することによって、彼女は聖なる者と一体になったのです」というような文章がありました。純粋な信仰と祈りによって、彼女自身が高められていく様子を、本を読みながら私も感じ取ることが出来ました。そして私たちの生き方について、大きなヒントと希望が与えられたような気がします。

百人一首かるた大会

1月10日(水)のLHRに、中1と中2がそれぞれ百人一首かるた大会を行いました。
中2の大会は大体育館で行われましたが、皆の熱気で、寒さも感じない程でした。
中1は小体育館で一斉に対戦しました。なかなかの熱戦で、かるたを取る「はい!」という掛け声が小体に響き渡っていました。下の写真は中2のかるた大会の様子です。

中2書初め展示

冬休みの自由課題として中2は書初めを課したところ、写真のような力のこもった作品が提出されました。

一覧に戻る