入学おめでとう

中学校入学式式辞

院長 田中弘志

新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。皆さんのご入学を心からお祝いし、歓迎いたします。今朝はきのうとは打って変わって素晴らしいお天気になりました。先週満開になった桜の花も、そのあとに続いた強風や冷たい雨にも耐えてまだその美しさを保っています。今日の青空に一段と映えて、ともに皆さんの門出を祝ってくれているようです。毎年のことではありますが、新入生を迎えることによって、迎える側の私たち教職員や在校生も何かしら新鮮な気持ちにさせられ、学校全体が元気を与えられる気がします。女子学院の新しい枝となって下さる皆さんと共に今年度の歩みを始めることが出来ますことを大変うれしく思っております。保護者の皆様には、ひと月ほど前に新入生保護者オリエンテーションでお目にかかりましたが、今改めまして心よりお喜びを申し上げます。ご入学本当におめでとうございました。これから始まるお子様方の女子学院における中学校生活が、実り多いものとなりますようにと願いながら、私どもも保護者の皆様と一緒に、お子様方の成長を見守っていきたいと思っております。ご協力のほど、よろしくお願い申し上げます。

さて新入生の皆さんは、今どのような気持ちでこの場に臨んでおられるのでしょうか。喜びと期待に胸を膨らませる一方で、ちょっぴり不安も感じているという人が大半だろうと思います。小学校時代の友達と別れて、あまり知っている人のいないこの学校で学ぶことへの不安を感じている人もいるかも知れませんし、今までとは違った遠距離通学に不安を感じている人もいるかも知れません。しかし、もう今日から皆さんの中学校生活は始まりました。どうかこれからはいろいろと新しいものに挑戦していく積もりで、前向きの気持ちで取り組んで下さい。新しい環境に対する不安は、誰でも多かれ少なかれ抱えているものです。不安なのは自分だけではありませんから、どうぞあまり心配しないで下さい。中学校に入ると、勉強の中味はもちろん、勉強の仕方、授業の受け方、生活の仕方、通学の方法、その他いろいろな面でこれまでとは随分違うところがでてくると思います。新しい友達の輪も広がるでしょうし、しばらくするとクラブ活動も新たに始まります。女子学院という学校は皆さんにたくさんのことを期待し、また要求もしますので、ここでの生活はとても忙しいものになると思います。慣れるまでには少し時間がかかるでしょうし、初めのうちはきっと疲れることも多いだろうと思いますが、出来るだけ早く自分の生活のリズムを作り上げることを当面の目標にして努力してみて下さい。

中学生になってこれからいろいろと新しい発見があり、経験をしていくことになりますが、女子学院に入った皆さんにとって恐らく一番大きな変化であり、新しい経験だと思われるのは、キリスト教に触れるということではないでしょうか。今日のこの入学式も、讃美歌を歌い、聖書の御言葉を聞き、ともに祈りをささげるという礼拝の形式で行われていて、皆さんの中には少し戸惑いがあるかも知れません。これから毎日の学校生活は朝の礼拝で始まりますが、礼拝はこの学校の中心になるものとして私たちが大切にしているものです。今はまだ分からないことばかりだと思いますが、何も心配する必要はありませんので、少しずつ慣れていってください。ただひとつだけ最初に心に留めておいて頂きたいのは、私たち一人一人は神さまに生かされている存在だということです。別の言い方をすれば、私たちは自分の意志で生まれてきて、自分の力だけで勝手に生きていくのではない、むしろ生かされているのだ、ということです。これから礼拝のたびに、また聖書の授業などで、繰り返し聖書の言葉に触れることになりますが、聖書というのは、自分たちの人生には間違いなく神さまが働きかけておられるということを、自らの経験を通して確信させられた人々の信仰の証言です。もう2000年近くの長い時代を越えて世界中のたくさんの人々によって読み継がれてきた、いわば不変のベストセラーとも言える書物です。ただそこに記されているのは、決して神のように崇高で、立派で、優れた人々の言葉や行いではありません。むしろ迷い、悩み、失敗をしては後悔を繰り返すような弱い人間の姿が多く描かれています。しかし大事なのは、神さまがそのような人間をどれほど大切に思い、いつくしんでおられるかということ、そしてそのような神の愛に対して人間はどのように応答していけばよいかということを中心に描いている、ある意味では大変不思議な書物だと言うことも出来ます。

先ほど新約聖書のヨハネによる福音書15章の一部を読んでいただきましたが、その中に「あなたがたが私を選んだのではない。私があなたがたを選んだ。」という言葉がありました。これは十字架の死を間近に控えたイエス・キリストが、弟子たちに長い長いいわばお別れの説教をされた、その一部に出てくる言葉です。弟子たちは自分が決断してイエスに従ったと思っていますが、実はそこには神さまの選びが先にあったのだということを語っておられるところです。今の時代を生きている私たちの場合も同じです。聖書の考え方によれば、私たち一人一人の決断や選びの背後には、神さまの深いご計画があり、一人一人にとって最もふさわしい形でそれが実現されていくというのです。もしそうであるならば、皆さんが女子学院を受験して、合格し、入学することになったその背後には、実は神さまの意思が働いていたということになります。聖書的に言うならば、皆さんは神さまに選ばれてこの学校に入学したということになるのです。しかし、「そんなことはない、私は神さまとは何の関係もなく、自分が受験を決めて、一生懸命努力して、合格を勝ち取ったのだ」と思われる方も多いのではないでしょうか。そう思われるのも無理はないと思います。実は皆さんの先輩たちも、多くの人が私の話を聞いて変だなと感じながら女子学院での生活を始められました。神さまと私たちの関わりについては、これからじっくり時間をかけて考えていって下さい。

女子学院中学校で私たちが大切にしていることがもう一つあります。この学校では勉強に力を入れることは当然のことですが、それ以外のクラブ活動やホームルーム活動、生徒会の委員会活動、体育祭や文化祭等の学校行事などをとても大事にしています。それは皆さんが幅広い活動や経験を積むことによって、頭も体も心も鍛え、友人との交わりを通してお互いに高め合えるような良い人間関係を築き、バランスの取れた人間として豊かに成長することが出来るようになるためです。先ほど女子学院での生活は大変忙しくなるだろうと言いましたが、それはこのようなことも前提にしているからなのです。どうかいろいろなことに積極的に取り組んでみて下さい。その際、一つ心に留めておいて欲しいことがあります。それは何事においても他人より優れていなければならないということはない、ということです。皆さんは間違いなくすでに十分にすぐれた能力に恵まれた人たちです。しかし一人一人に違った、大切な個性があり、違った歩み方があります。疲れた時には一休みすることもあるでしょう。これからは他人との比較ではなく、自分の中に目標を設定して、自分に合ったペースとやり方でその目標に向かって努力するように心がけて下さい。自分が持っている良いものを伸ばし、友人の優れているところに学ぶという心構えで、お互いに学び合い、高め合うことの出来る友人関係を是非作り上げていって下さい。

最後に、明るく楽しい中学校生活を送るために、私は皆さんに一つお願いがあります。それは人間関係の基本ともいうべきものですが、周囲の人々に対して敬意をもって接する気持ちを大切にして頂きたいということです。それは具体的には例えばきちんとした挨拶をするとか、場所や時をわきまえて、自分の言動にけじめを付けるというようなことで表わされます。必要な時にきちんと挨拶をするということは、相手の存在を認めるという行為です。先生でも友達でも、誰かが話している時にはその話に耳を傾ける。そして自分の意見を求められたり、質問などがある時には、遠慮せずにはっきりそれを表明する。これも相手を尊重する姿勢に通じるものです。皆さんが中学生になるというのは、一歩大人に近づくということですが、このような人間関係の基本になるようなことは、大人になっても是非忘れないでいてもらいたい、というのが私の願いです。それが集団生活の、そして社会生活の基本であり、考えようによっては、むずかしい勉強が出来るよりももっと大事なことかも知れません。皆さん方一人一人が明るく、まっすぐに成長していくことを、多くの人々が期待しています。皆さん自身の間でも、お互いに不愉快な思いをしなくてすむように、他人に対する思いやりと相手を尊重する気持ちを忘れないで、過ごしていただきたいと思います。
これから始まる女子学院での生活が楽しく、また意味のある充実したものとなりますようにと心から願いまして、校長の式辞といたします。

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