2010年 新年のご挨拶

院長 田中弘志

皆さま、新年おめでとうございます。昨年は新型インフルエンザに悩まされた一年でした。私共の学校でも夏以降、月を追って徐々に罹患者が増加し、10月の半ばにはついに中学、高校とも一時全校閉鎖を余儀なくされてしまいました。その後一旦おさまったのですが、11月の半ばには第2のピークを迎えました。ただこの時は幸いクラスや学年を閉鎖するところまではいきませんでした。結局12月までの累計では、全校生徒のおよそ35%が罹患したことになります。中でも中学生の罹患率が高く、中学全体では46%とほぼ半数に達しました。全国的に見ると今はもう最盛期は過ぎた感じはしますけれども、果たしてこれからどうなっていくのでしょうか。特にこれからは入試のシーズンを迎えること、また昨年当初心配されていた新型鳥インフルエンザではなく、実際には豚インフルエンザが流行したことなどを考えると、まだまだ予断を許さない状況です。
さて昨年はいろいろと新しい動きのあった年でもありました。1月にはアメリカでオバマ政権が、8月には日本で鳩山政権が誕生し、米国や日本のみならず、世界全体にいろいろな意味での「変革」への期待が一気に高まった感がありました。しかしその後の政権運営は米国でも日本でもやや迷走気味で、また新政権の意気込みだけが空回りしている感じもします。そんな中でオバマ大統領にノーベル平和賞が授与されたことは大きなニュースでした。ただこの決定には首をかしげる人も多く、特にアメリカの世論はほとんど7割の人が彼は受賞に値しないと考えているとの報道がなされています。4月のプラハ演説で核廃絶に強い姿勢を表明しただけで、まだ何の実績もないこの大統領に平和賞が授与されたというのは、やはりオバマ大統領に平和への牽引力になって欲しいという、ノーベル賞委員会に代表される国際社会の強い期待と願いを背景にした、いわば先行投資の意味合いが強かったのでしょうか。
私も国際情勢の変化への一つのきっかけとして期待はしていますが、その一方で12月10日の授賞式に際してなされた彼の受賞演説には少々がっかりさせられました。アフガンとイラクという二つの戦争の最高司令官としての自らの役割を意識しつつ、武力行使を正当化する論調が目立っていたからです。演説の題は「正義として持続する平和」でしたが、現実への対応では「武力行使は不可欠なだけでなく、道徳上も正当化されることもある」という主張は、理想と現実の落差の大きさを際立たせていました。しかしこれはオバマ氏個人の問題というよりは、この世の政治において大きな責任と権力を有する全ての人々が直面する現実であり、限界なのだろうと思います。そういう意味では、オバマ大統領のノーベル平和賞受賞を一つのてこにして、それを真に意味あるものとするために、核武装だけではなくあらゆる種類の暴力と武力行使に対してNO!を突きつける国際世論を高めていく努力が、権力の有無にかかわらず、私たち自身も含めて世界のあらゆるレベルでますます求められてくるのではないでしょうか。
聖書という書物は愚かしい人間の現実を実によく見つめ、そして描いています。人間が避けることの出来ないエゴ、際限のない欲望、虚栄心、ねたみ、敵意、そしてそこから生じてくる数々の争いの現実。その上でなお聖書は「平和を実現する人々は幸いだ」と呼びかけます。その土台にあるのは「キリストによる平和」です。使徒パウロはこう書いています。「実にキリストは私たちの平和であります。二つのものを一つにし、御自分の肉において敵意という隔ての壁を取り壊し、規則と戒律ずくめの律法を廃棄されました。こうしてキリストは、双方を御自分において一人の新しい人に造り上げて平和を実現し、十字架を通して両者を一つの体として神と和解させ、十字架によって敵意を滅ぼされました。」十字架のあがないによって回復された神との平和を前提にして、愛とゆるしによって他者を受入れることを求められている私たちが、「平和を実現する人」へと変えられていくことを祈り求めたいと思います。

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