2008年 新年のご挨拶

院長 田中弘志

皆さま、明けましておめでとうございます。今年こそは人類の未来に少しでも希望を見出すことが出来るように、たとえ小さくても確かな手ごたえを感じられるような一歩を私たち人類が踏み出すことが出来ますようにと心より願っております。
さて昨年暮れに「いのちの食べかた」という、大変興味深い映画を見る機会がありました。本校のある生徒とその保護者の方に勧められたものです。これは私たちが日常的に目にするさまざまな食物、野菜や果物、穀物、魚、鶏、牛、豚等がいかにして生産され、飼育され、収穫され、解体されていくかを淡々と写し出していくドキュメンタリー映画ですが、何の解説も音楽もストーリーもなく、ただ現場の機械音だけが映像とともに流れているという、非常に単純ですが見る者を圧倒する作品、そしていろんなことを考えさせられる映画でした。印象的だったのは、ここまでやるのかと思わせられる程に機械化され、管理された生産システムと、そのシステムの中で機械の一部と化したように無表情で淡々と作業する人々の姿です。人間が生きるためには、これだけ多くの「いのち」が日々犠牲になっているのだという単純な事実を改めて目の前に突きつけられたという思いがする一方で、私の頭の中を去来するのは「過剰」という言葉でした。ここまでして効率性を追求し、生産性を高めないと人類は生きていけないのか、いや必ずしもそうではないのではないかという思いです。ひょっとしたら日本人も含めて一部の人間による食の独占をますます助長しているだけかもしれない。人類は、特に先進国の人間は、もっと素朴で身の丈に合った生活を本気で目指していくべき時に来ているのではないかという思いを強くしました。
折しも今年は二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの排出削減を先進国に義務づける京都議定書の約束期間が始まる年です。7月に予定されている北海道洞爺湖サミットでも、地球温暖化防止の問題は最優先課題の一つとなるようです。今地球温暖化との闘いは世界の関心事であり、緊急かつ最大の課題の一つです。温暖化の危機を訴えたアル・ゴア前米副大統領と、「温暖化対策こそ紛争回避の有効策」との理解で国連の「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)が’07年のノーベル平和賞を同時受賞したことにそれが現れています。一方、森林の減少、水不足、干ばつ、国土の水没等の危機に直面する国や地域の間では「気候変動は人権問題である」との認識が高まり、温室効果ガスの削減に積極的でない「大国」に対する風当たりは相当強くなっているようです。そして残念ながら日本もそのような大国の一つに数えられています。
日本で臨時国会が年を越えて大幅に延長されたのは、テロとの闘いに協力するため何としても洋上給油再開の道を開きたいという政府与党の強い願いによるものでした。しかし私などには、あれだけ論議の分かれる「国際貢献案」に固執するよりも、自分たちの足元(生活の仕方)を見直すことから始めて、地球の温暖化対策に日本のアイデイアと技術力と資金を傾注していくことこそ、よほど日本にふさわしい、また世界に喜ばれる貢献の仕方だと思えてなりません。勿論その時には私たち自身が、自分たちの身の回りで出来ることを真剣に考えていくことが前提になります。しかし日本の国家としての政策がどうあろうと、私たちはやはり環境問題の重大さを意識しつつ歩む者でありたいと思います。人類の未来に希望を繋ぐために。

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